仙台高等裁判所 平成8年(行コ)10号 判決 1997年10月29日
控訴人
佐藤惣一郎
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
山田二郎
同
安藤裕規
被控訴人
郡山市固定資産評価審査委員会
右代表者委員長
関川栄達
右訴訟代理人弁護士
石川博之
同
平石典生
主文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人佐藤惣一郎の所有する別紙物件目録一記載の土地に対する平成三年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被控訴人が平成三年七月二四日付でした同控訴人の審査の申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。
三 控訴人遠藤弥三次の所有する別紙物件目録二記載の土地に対する平成三年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被控訴人が平成三年七月二日付でした同控訴人の審査の申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。
四 控訴人根本裕久の所有する別紙物件目録三記載の土地に対する平成三年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被控訴人が平成三年六月三日付でした同控訴人の審査の申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。
五 控訴人横田重一の所有する別紙物件目録四記載の土地に対する平成三年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被控訴人が平成三年六月三日付でした同控訴人の審査の申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。
六 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴の趣旨
主文と同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
一 本件の概要
本件は、控訴人らが、各々所有する各土地の平成三年度における固定資産課税台帳の登録価格が高額すぎるとして審査の申出を行ったところ、被控訴人がいずれも審査の申出を棄却する旨の決定をしたことから、その各審査手続が違法である、また、各土地の評価が違法であると主張して、それぞれ右各決定の取消しを求めた事案である。
二 当事者間に争いのない事実及び当事者双方の主張は、左記のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の二ないし四(原判決二枚目裏八行目から七枚目表六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表九行目の「そのころ各決定書が」を「控訴人佐藤については七月二四日付、同遠藤については七月二日付、同根本及び同横田についてはいずれも六月三日付の各決定書がそれぞれそのころ」に改める。
2 原判決四枚目裏五行目から五枚目表一行目までを次のとおり改める。「固定資産評価審査委員会は、固定審査課税台帳の登録価格について納税者から審査の申出がなされたときは、地方税法(以下「法」という。)四三三条の定めるところにより、専ら職権をもって必要な調査及び事実審査をしたうえで、登録価格の合理性・妥当性を再吟味し、その適否を決定しなければならない。ところが、被控訴人は、控訴人らから登録価格が高すぎるとの理由で審査の申出を受けていたにもかかわらず、評価の具体的な根拠や資料を示していない市長の答弁書を鵜呑みにして、市長から評価の算定資料等を取り寄せるなどの実質的な調査及び事実審査を全く行わず、控訴人らに具体的な理由の主張がないとして本件各決定を行ったのであり、本件各決定は、法四三三条に反し、審理不尽の違法があることが明らかである。」
三 当審における控訴人らの主張(評価の違法)
1 法三八八条一項によると、固定資産税の課税客体である固定資産の評価は、自治大臣が告示で定める固定資産評価基準により行われることになっているが、この評価基準(法三八二条三項、法四〇二条によると、法的拘束力をもつものではなく、単に市町村に対する技術的援助として定められているものである。)によると、市街地的形態を形成している地域内の宅地については路線価方式により評価をすることとされており、路線価方式による評価の手続の中で特に重要な過程は、標準宅地の選定、標準宅地の不動産鑑定士による鑑定評価(標準宅地の時価の評定)、標準宅地の沿接する主要な街路と対象宅地の沿接する街路との比較(格差率の認定)と路線価の付設、画地計算法による各筆の評価額の算定である。
本件の場合、標準宅地の選定が価格差二〇パーセント以内の状況類似地区の中で適正に選定されているかどうか明らかにされていない。また、標準宅地の不動産鑑定士による鑑定評価は、正常価格(正常売買価格)を算定したことになっているが、正常価格とは何か、正常時価と適正な時価(法三四九条、法三四一条五号)とはどういう関係があるのか、正常価格と最有効利用を前提としている地価公示価格(地価公示法二条二項、不動産鑑定評価基準四(四)にいう「最有効使用の原則」)がどういう関係にあるのか明らかではない。それに、不動産鑑定評価基準によると、売買取引事例法による鑑定は、「取引事例と類似性がある場合に有効である。」と定められており、また収益還元法による鑑定は、「商業地では特に有効である。」と定めている。しかし、本件では不動産鑑定士による鑑定評価書は開示されていないが、鑑定評価書では、本件の土地が商業地であるものについても、売買取引事例法により評価を行っているようである。このような標準宅地の鑑定評価は不動産鑑定評価基準に適合していないもので、到底適正な鑑定が行われているものとはいえない。
また、本件の評価に当たって郡山市が行った格差率の認定も明らかにされていない。郡山市は、本件宅地の評価額の算定に当たり各街路に付設された路線価に基づき画地計算法により評定を行ったとしている。しかし、各筆の地形(間口、奥行、街路との沿接状況など)の認定が不明である。およそ地形図とはいえない公図で認定したのではないかといわれている。また画地計算法に定めている奥行価格逓減補正率、側方路線影響加算率、二方路線影響加算率、間口狭少補正率等の補正率の根拠が不明であるばかりか、これらの補正率を適用して算定した評価額と時価とはかけ離れている。このように時価とかけ離れた評価は、補正率が合理性を欠いていることを明らかにしているものである。
2 平成三年度の評価替えが不公平なものであることは、路線価が開示されていないことが何よりもこのことを裏付けている。路線価を開示すると不公平な評価を行っていることを暴露してしまうことを恐れて、市町村では路線価を開示することに強く抵抗していたが、納税者の要求により平成九年度の評価替えから漸く全面公開されることになっている。平成六年度の評価替えでは地価公示価格の七割水準に大幅な評価の引上げを通達により強行したのであるが、昭和六三年度、平成三年度及び平成六年度の各評価額を比較すると、次のとおりであり、郡山市では全くばらばらの引上げが行われている。これは、いかに平成三年度の評価替えにおいて不公平なことが行われていたかということを示しているものである。
(一) 控訴人佐藤関係(別紙物件目録一記載の土地)
昭和六三年度評価額 二一六六万八二〇七円(一〇〇)
平成三年度評価額 五三六四万八二一三円(247.59)
平成六年度評価額 二憶二一九七万九七四四円(1024.45)
(括弧内の指数は、昭和六三年度を一〇〇とした値上りの指数である。以下同じ。)
(二) 控訴人遠藤関係(同目録二記載の土地)
昭和六三年度評価額 七六七万三二四二円(一〇〇)
平成三年度評価額 九二〇万二〇四六円(119.92)
平成六年度評価額 四五四八万一二六二円(592.73)
(三) 控訴人根本関係(同目録三記載の土地)
昭和六三年度評価額 六四七八万四九九二円(一〇〇)
平成三年度評価額 一億七五四六万一六二二円(270.84)
平成六年度評価額 六億四〇三五万八八九六円(988.44)
(四) 控訴人横田関係(同目録四記載の土地)
昭和六三年度評価額 二七七万二〇〇〇円(一〇〇)
平成三年度評価額 四二五万〇四〇〇円(155.33)
平成六年度評価額 二一四二万二〇一六円(772.80)
四 被控訴人の主張
控訴人らは、原審において、手続問題のみで充分であるとして、実体的な争点の審理を取り下げたものであり、判決の結果が自己に不利になったからといって、控訴審において再び実体的な争点の審理を追加することは、被控訴人に審級の利益を失わせるうえ、重過失による時機に後れた攻撃防御方法の提出であって、著しく訴訟手続を遅延させるものであるから、許されない。
第三 証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 被控訴人の本案前の主張について
行政事件訴訟法一七条は、数人が共同して訴えの提起ができる要件として、当該処分又は裁決の取消しの請求との関連請求であることを求めているが、そもそも関連請求制度は、当該取消訴訟に関連のある他の請求も併合して一括審理し、審理の重複と裁判の矛盾や抵触を回避することにより、裁判の迅速化を図る趣旨で設けられたものであるから、その概括的な類型を定めている同法一三条六号については、各請求の基礎となる事実が密接に関連しており、その争点がある程度共通していれば、請求の関連性を認める趣旨であると解することができる。そこで、控訴人らの本件各訴えについてみると、控訴人らがそれぞれ所有する本件各土地について、固定資産課税台帳の登録価格が高額すぎるとして審査の申出を行ったが、被控訴人がいずれもこれを棄却する決定をしたため、その取消しを求めているものであって、それぞれの基礎となる事実は別個であるが、乙全第九ないし第一四号証(郡山市固定資産評価審査委員会会議録、以下「会議録」という。)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らが右審査の申出をしたのは同じ日(四月三〇日)であり、被控訴人は、五月九日に開催した委員会において、右申出にかかる案件を一括審理して受理するものと決定し、その後数回にわたって開催された委員会においても並行して審理が行われたものであることが認められるところ、控訴人らの本件各請求は、いずれも右審査手続にほぼ同一の違法があることを主たる理由とするものであり、その限りにおいては重要な証拠が共通している。そうすると、控訴人らの各訴えは基礎となる事実が密接に関連していると評価することができ、その争点もおおむね共通しているので、本件においてはこれらを関連請求として審理することが違法であるとはいえない。
二 次に、本件の各審査手続における違法性の有無を判断するに当たり、まず固定資産評価審査委員会による審査手続の意義と性格等について検討を加える。
1 法は、固定資産税の課税標準となる固定資産の価格は、適正な時価によるものとしている(法三四一条五号)が、その評価の基準並びに評価の実施及び手続についての基準の策定を自治大臣に委ねており(法三八八条一項)、これを受けて制定された昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号(以下「自治省告示」という。)によれば、宅地(現況による。)の評価の方法、手順は、おおむね次のとおりである。
(一) 各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める。
(二) 各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設するが、
(1)「市街地宅地評価法」による場合は、①市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、その状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定する、②標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路の路線価を付設する、③路線価を基礎として、「画地計算法」を適用して各筆の宅地の評点数を付設する(この場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の付表等について、所要の補正をして、これを適用する。)。
(2)「その他の宅地評価法」による場合は、①おおむねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに状況類似地区の区分を行い、状況類似地区ごと道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて標準的と認められるものを標準宅地として選定する、②標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設する、③標準宅地の評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の宅地に評点数を付設する(この場合の補正は(1)と同じ)。
2 市町村長は、右自治省告示が定めるところにしたがって個々の固定資産の価格を決定し(法四〇三条一項)、こうして決定された価格が固定資産課税台帳に登録される(法四一一条一項)。そして、右登録事項に不服がある納税者は、各市町村に設置された固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるところ(法四三二条一項)、同委員会は、市町村の住民で布町村税の納税義務がある者のうちから、議会の同意を得て市長村長が選任した委員によって構成され(法四二三条一ないし三項)、審査の申出があったときは、同委員会は、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならず(法四三三条一項)、審査申出人の申請があったときは、特別な事情がある場合を除き、口頭審理の手続によることが定められている(同条二項)。このように法が、固定資産課税台帳の登録事項に関する不服申立の審査を、その評価と課税を行う市町村長から独立した第三者機関である固定資産評価審査委員会に委ねたのは、中立の立場にある委員会をして公正な審査を行わせ、もって、固定資産評価の客観的合理性を担保して納税者の権利保護を図るとともに、適正な税の賦課を実現しようとしたからにほかならず、かかる手続の性格は、簡易迅速な納税者の権利利益の救済と課税行政の適正化を図ることを目的とした行政救済手続である、と解することができる。
また、納税者は、固定資産課税台帳を縦覧してその所有する土地の価格を知り、これに不服を抱いたとしても、不服事由を具体的に特定するために必要なその評価の手順、方法、根拠等に関する資料・情報がすべて評価権者である市町村長の手中にあって、その内容を全く知ることができないうえに、内容的にもかなり専門技術的な事項にまでわたるのが通常である。したがって、宅地の登録価格について審査の申出があった場合には、公平の見地から、固定資産評価審査委員会は、自らまたは市町村長を通じて、審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順、方法、根拠等を知らせる措置を講ずることが要請されているものと解すべきである(最高裁平成二年一月一八日第一小法廷判決・民集四四巻一号二五三頁参照)。そして、宅地の登録価格が高額すぎるとして、審査の申出があった場合、固定資産評価審査委員会としては、審査申出にかかる土地について右評価の方法及び手順が適正にされているかどうかについて、その根拠にまで遡って審査の対象とし、必要であれば職権をもって調査その他事実審査をしたうえで、審査の決定をすべきものである。
三 そこで、以上のような見地を前提として、被控訴人の審査手続について各控訴人毎にそれぞれの主張を順次検討する。
1 控訴人佐藤に関する審査手続
(一) 甲第三号証、乙全第二号証の1、第九ないし第一一号証、第一三ないし第一五号証、乙イ第一号証の1ないし11、原審における証人菊地政孝及び同古内康一の各証言、原審における控訴人佐藤本人尋問の結果、当審における被控訴人代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人佐藤に関する審査手続の経過について、次の事実が認められる。
(1) 控訴人佐藤は、四月三〇日、被控訴人に対し、その所有にかかる別紙物件目録一記載の土地につき固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い(その他一一筆の土地についても同時に審査の申出を行った。)、あわせて審理手続の方式として口頭審理を申請したが、その申出の趣旨を「郡山市駅前一丁目353247.59%の上昇、不当・不適正そのものだ絶対訂正を望む」とし、その理由を「営業活動を妨害することは絶対許すことが出来ない。以前にもどすことを要求する。」と主張していた。
(2) これを受けて、被控訴人は、五月九日、委員長のほか五名の委員から成る委員会を開催し、控訴人佐藤の審査申出は法定要件を具備しているものと認め、これを受理することとし、口頭審理の期日を同月二一日午前一〇時から郡山市福祉センターにおいて開催する旨を決定し(同月一四日、控訴人佐藤及び市長にその旨をそれぞれ通知)、各委員は、引き続き五月九日午前一〇時二〇分ころから午後〇時四〇分ころまでの間、マイクロバスに乗って委員会書記が予め選定しておいた土地(控訴人佐藤の申出にかかる一一筆の土地のほか、控訴人遠藤の申出にかかる四筆の土地、控訴人根本の申出にかかる一〇筆の土地)のうち何個所かを回り、実地に見分した。
(3) ところが、第一回審理期日当日の午前九時ころ、控訴人佐藤が郡山市役所を訪れて被控訴人書記に対し都合により出席できないと告げ、その場で作成した同日付の審理方法変更願を提出して、口頭審理から書面審理への変更を申し立てた。そのため被控訴人は、福島県当局(地方課等)に照会して、右申立ての取扱いにつき助言を求めて検討することとし、同月二四日開催された委員会において、その申立てを認めて本件審査手続を書面審理に変更することを決定した。そして、被控訴人は、同月二七日、市長に対し、期限を六月一〇日までとする答弁書の提出を求める旨の依頼書を発し(五月三一日到達)、六月一四日、市長から答弁書の提出を受けた。右答弁書には、土地の評価は自治省告示によって行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、控訴人佐藤の審査申出にかかる土地の評定について、当該土地の用途区分を普通商業地区とし、当該土地の正面路線と同一の状況類似地区に属し、当該土地の南方約六〇メートルに位置する宅地を標準宅地に選定し、近傍の売買実例価格、基準宅地及び他の標準宅地との評価の均衡を総合的に考慮し、当該標準宅地の適正な時価(評点数)を評定し、この標準宅地と当該土地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政条件)を比較し、当該土地の正面路線評点数を評定し、右評点数に奥行二六メートルの普通商業地区奥行逓減率0.96を掛けて基本一平方メートル当たりの評点数を算出して、これをもとに当該土地の評価額(一点一円として)を算出した旨の評価の算定過程が明示されていた。
(4) そこで、被控訴人は、六月一五日、控訴人佐藤に対し、右答弁書を送付するとともに、弁ばく書の提出期限を同月二六日と定めて通知した。これに対し、控訴人佐藤は、同月二〇日、弁ばく書提出期限延期願を提出して、そのころ有志とともに税制の調査のために欧州へ渡航中であり、同月一八日に帰国したばかりで、同月二六日までに弁ばく書を提出することができないとして、その提出期限を七月末日まで延期するように求めた。そのため被控訴人は、六月二八日に開催された委員会において、右提出期限を七月五日まで延期することを認めたが、七月一日、控訴人佐藤はなおも六月二九日付の書面をもって、業務多忙を理由に再度提出期限を七月末日まで延期するよう求め、同月五日までに弁ばく書を提出しなかった。
(5) 被控訴人は、七月二二日開催された委員会において、弁ばく書提出期限の延期を認めないこととし、評価の根拠となる資料等を市長から提出を求めたりすることなく、直ちに審理を終結して、審査の申出を棄却する旨の決定をした。当日の委員会における審理経過は、委員長が右のような手続の経過説明をした後、「それで、本日決定しようと思いますがどうでしょう。」と提案し、これを受けて各委員から「異議なし」との発言があり、すでに起案されていた決定書案のとおり決定されたものであり、当日の会議録には、その際に具体的資料に基づく検討がされたとの記載はない。
(6) 控訴人佐藤に送達された同月二四日付の決定書によれば、右決定の理由の要旨は、審査申出にかかる土地の評価については、自治省告示をふまえ、「①評価庁の用途地区の区分について、評価庁は、当該地区を普通商業地区と区分したが、評価庁の用途区分は適切である。②状況類似地区の区分について、評価庁の状況理事地区の区分は適切である。③標準宅地の選定について、評価庁は、標準宅地として、駅前一丁目三三八番、地目宅地、地積456.19平方メートルを選定したが、評価庁の標準宅地の選定は適切である。④標準宅地の評定について、標準宅地の価格は、標準宅地の適正な時価であり、適正な時価とは、近傍の正常売買価格から比準し、基準宅地、標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮した評価格であるが、当該標準宅地の評価格を一四三、八〇〇点(平方メートル当たり)と評価した評価庁の評価は適切である。⑤路線価格の評定について、路線価格は標準宅地から比準し、適切な時価(評価格)を求めるものであり、標準宅地と当該土地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政的条件)を比較し、当該土地の正面路線評価点を一四三、八〇〇点(平方メートル当たり)とした評価庁の評価は適切である。⑥画地計算について、評価庁は、基本一平方メートル当たり評点数を、正面路線価一四三、八〇〇点に奥行二六メートルの普通商業地区奥行逓減率0.96を掛けた一三八、〇四八点と確定し、本件土地の地積に右評点数を掛けて(一点一円として)評価額五三六四万八二一三円と算出したもので、この画地計算は適切である。」というものである。
(二) 当審において被控訴人代表者は、郡山市資産税課の職員(原審における証人菊地政孝の証言によると、平成三年当時、資産税課の職員が被控訴人の書記を兼ねていた。)から説明を受けた旨供述するが、当審で提出された会議録(乙全第九ないし第一四号証)を精査しても、被控訴人が委員会において、市の資産税課の職員から審査申出にかかる土地について、その評価の方法、手順及び根拠等についての具体的な説明を受けたとの形跡は全く見当たらず、被控訴人代表者の右供述は採用することができない。
また、被控訴人の各委員が、五月九日午前一〇時二〇分から午後〇時四〇分までの間、予め書記が選定しておいた土地のうち何個所かを実地に見分したことは前記のとおりであり、当日の会議録(乙全第九号証)には「実地調査」として記録されているが、右実地見分は、市長からの答弁書も出されていない段階で、審査申出人の立会いもなく行われたものである。郡山市固定資産評価審査委員会条例(昭和四〇年五月一日郡山市条例第九九号、以下「郡山市条例」という。)一〇条によれば、実地調査を行った場合は、事案の表示、調査の場所及び年月日、実地調査の結果等を記載した調書を作成し、実地調査を行った委員及び調書を作成した書記が署名押印しなければならないとされているのに、右「実地調査」の調書は作成されていないし(調書が作成されていれば、審査申出人は、法四三三条四項、五項により、後日この調書を閲覧することができる。)、会議録にも実地調査の結果は記載されていない。そうすると、右実地見分は、審査申出のあった多数の土地の何個所かを事実上見て回ったにすぎないものであって、審査対象事項についての実地調査がされたものとみることはできない。
(三) 以上の事実関係に基づいて、控訴人佐藤が主張する審査手続の違法のうち、審理が尽くされていないとの点について、まず判断する。
本件の書面審理の経過をみると、前記(一)認定の事実によれば、控訴人佐藤は、当該土地の評価が前基準年度のそれに比較して高額にすぎるのでその見直しを求めるとの理由で審査の申出を行い、これに対して市長から、自治省告示の定める基準に従って選定した標準宅地に比準して算出した過程を算式を交えながら明示した答弁書が提出されたところ、控訴人佐藤が延長された期限を経過しても弁ばくを行わなかったので、被控訴人は、評価の方法、手順、根拠等に関する資料、すなわち、審査対象事項にかかる資料を市長から提出を求めてこれを調べることなく審理を終結し、本件決定をするに至ったものである。
しかしながら、市長から提出された答弁書の記載だけでは比準した標準宅地の選定及びその価格の決定に関する説明が決して十分ではないと考えられ、被控訴人が控訴人に対する了知措置義務を尽くしたとはいえないばかりでなく、答弁書に対して審査申出人が弁ばく書を提出しないからといって、審査申出人が右答弁書記載の主張及び事実を認めて争わないものとみなすことができないのはいうまでもないところであって、被控訴人としては、職権をもって法四三三条一項の定めるところに従い、必要な調査その他の事実審査を行ったうえで決定をすべきものである。前記(一)認定の答弁書の記載と審査決定書の記載とを対照すると、被控訴人の決定は市長が提出した答弁書の記載をそのまま是認したものであることが容易に見て取れるが、第三者機関である被控訴人が標準宅地の選定とその評定及び当該宅地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政的条件、画地条件等)を比較検討し、当該宅地の評価額を認定・算出するには、具体的資料に基づく審理が不可欠であるのに、被控訴人がこのような具体的資料を徴することなく審理を終結し、審査決定をしたことは、控訴人佐藤が、審査の申出において前言認定の程度の不服事由しか述べておらず、市長の答弁書によりその主張が示された後になっても、弁ばくをしなかったとの事情を考慮しても、法四三三条一項の趣旨に反し、審理不尽の違法があるものというべきである。
2 控訴人遠藤に関する審査手続
(一) 乙全第九及び第一三号証、乙ニ第一号証の1ないし10、原審における証人菊地政孝及び同古内康一の各証言、当審における被控訴人代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人遠藤に関する審査手続の経過について、次の事実が認められる。
(1) 控訴人遠藤は、四月三〇日、被控訴人に対し、その所有にかかる別紙物件目録二記載の土地外三筆につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請するとともに、代理人として遠藤喜志雄を選任したが、その申出の趣旨を「私儀所有の土地(虎丸町一三〇ないし一三三)の評価額の異常な価格について御説明願いたい。」とし、その理由を「土地の異常な評価額の上昇はこの上に住む人達の地代を大幅に値上げせざるを得ません。家賃地代はそう簡単には上げられません。何故二割も上昇したのでしょうか。」と主張していた。
(2) これを受けて、被控訴人は、五月九日、前記1(一)(2)のとおり委員会を開催し、右審査申出を受理し、市長に対し、後記の控訴人根本及び同横田の分とあわせて、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める旨決定して、その旨の依頼書を発した。なお、各委員がマイクロバスに乗って、予め委員会書記が選定した土地を回ったことは、前記1(一)(2)のとおりである。
(3) 五月一五日付で市長から被控訴人に提出された答弁書には、前記控訴人佐藤の場合と同様に、自治省告示に定める基準に従って土地の評価を行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、控訴人遠藤の審査申出にかかる土地の評定について、当該土地の用途区分を普通住宅地区とし、当該土地の正面路線と同一の状況類似地区に属し、当該土地の東方約一〇〇メートルに位置する宅地を標準宅地に選定し、近傍の売買実例価格、基準宅地及び他の標準宅地との評価の均衡を総合的に考慮し、当該標準宅地の適正な時価(評点数)を評定し、この標準宅地と当該土地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政条件)を比較し、当該土地の正面路線評点数、側方路線評点数及び二方路線評点数を算定し、これらの評点数にそれぞれ併用住宅奥行逓減率を掛けて、正面路線基本、側方路線加算及び二方路線加算一平方メートルあたり評点数を算出して、当該土地の評価額(一点一円)を算定した旨が示されていた。
(4) そこで、被控訴人は、同月一五日、控訴人遠藤に対し、右答弁書を送付するとともに、弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したところ、同月二一日、控訴人遠藤は、弁ばく書を提出し、市長の答弁書が極めて抽象的であると批判したうえで、①売買実例の場所と価格を開示してもらいたい、②一〇〇メートル離れた所を標準宅地とするのは不当である、③標準宅地の特定を具体的に示してもらいたい、と主張した。これを受けて、被控訴人は、そのころ市長に対し右弁ばく書を送付して再答弁書の提出を求め、六月六日、市長から再答弁書の提出を受けたところ、右弁ばくに対して、①については、売買実例は法律の規定により開示できない、②については、郡山市の場合、普通住宅地区において、状況類似地区の区分は概ね四〇〇メートル四方となっているから標準宅地の選定は適切であり、③については、旧身体障害者会館(現ゲートボール場)の東側であるとして、その住居表示を付記して場所を特定した。
(5) 被控訴人は、同月六日、控訴人遠藤に対し、右再答弁書を送付するとともに、再弁ばく書の提出期限を同月一四日と定めて通知したが、控訴人遠藤から再弁ばく書は提出されなかった。そこで、被控訴人は、同月二八日開催された委員会において、評価の根拠となる資料等を市長から提出を求めたりすることなく、審理を終結し、審査の申出を棄却する旨の決定をした。当日の委員会における審理経過は、委員長が「六月一四日までに期日を定め、弁ばく書を提出するよう言ったけれども、出て来ない。結果として「審査決定」ということですが、いかがですか。」と提案し、これを受けて各委員から「異議なし」との発言があり、すでに起案されていた決定書案のとおり決定されたものであり、当日の会議録には、その際に具体的資料に基づく検討がされたとの記載はない。
(6) 控訴人遠藤に送達された七月二日付の決定書によれば、右決定の理由の要旨は、審査申出にかかる土地の評価について、自治省告示の「市街地宅地評価法」により、「①用途地区の区分について、当該地区を普通住宅地区と区分した評価庁の用途区分は適切である。②状況類似地区の区分について、評価庁がした状況類似地区の区分は適切である。③標準宅地の選定について、評価庁は、標準宅地として、細沼町一七番六、地目宅地、地積132.23平方メートルを選定したが、評価庁の標準宅地の選定は適切である。④標準宅地の評価について、評価庁は、当該標準宅地の評価格を二七、六〇〇点(平方メートル当たり)と評価したが、評価格は適切である。⑤路線の評価について、評価庁は、当該地の正面路線評価点数を二八、九〇〇点(平方メートル当たり)、側方路線評価点を二八、〇〇〇点(平方メートル当たり)、二方路線評価点を二五、六〇〇点(平方メートル当たり)としたが、評価庁の評価は適切である。⑥画地計算について、評価庁は、a正面路線基本一平方メートル当たり評点数を正面路線価二八、九〇〇点に奥行六三メートルの普通住宅奥行逓減率0.87を掛けた二五、一四三点とし、b側方路線加算基本一平方メートル当たり評点数を側方路線価二八、〇〇〇点に奥行三〇メートルの普通住宅奥行逓減率0.97と普通住宅側方加算率0.07とを掛けた一、九〇一点とし、c二方路線加算基本一平方メートル当たり評点数を二方路線価二五、六〇〇点に奥行六三メートルの普通住宅奥行逓減率0.87と普通住宅二方加算率0.03とを掛けた六六八点として、本件土地の地積にこれらaないしcを合計した評点数を掛けて評価額九二〇万二〇四六円と算出したもので、この画地計算は適切である。」というものである。
(二) なお、郡山市の資産税課の職員から説明を受けた旨の当審における被控訴人代表者の供述が採用することができないものであること、五月九日に行われた実地見分が、審査対象事項についての実地調査がされたものとみることができないことは、控訴人佐藤の場合と同様である。
(三) 以上の事実関係に基づいて、控訴人遠藤が主張する審査手続の違法のうち、審理が尽くされていないとの点について、まず判断する。
控訴人遠藤に関する書面審理手続の経過をみると、前記の認定事実によれば、控訴人遠藤は、当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行い、これに応じて市長から、自治省告示が定める基準に従って算出した過程を算式を交えながら明らかにした答弁書が提出されたので、弁ばく書をもって、売買実例の開示と標準宅地の特定を求め、当該標準宅地の選定についての不服を申し立てたところ、市長が再答弁書をもって、守秘義務等を理由として右開示を拒む一方、標準宅地を具体的に特定し、その選定の根拠についてさらに説明を付加したが、再弁ばくを行わなかったので、被控訴人は、評価の方法、手順、根拠等に関する資料、すなわち、審査対象事項にかかる資料を市長から提出を求めてこれを調べることなく審理を終結し、本件決定をするに至ったものである。
しかし、控訴人遠藤の弁ばく書と市長の答弁書と再答弁書によって、控訴人遠藤の不服事由の特定がなされて争点がある程度明確になったと考えられるが、控訴人遠藤が再答弁書に対しさらに弁ばく書を提出しないからといって、同控訴人が右再答弁書記載の主張及び事実を認めて争わないものとみなすことはできず、被控訴人としては、法四三三条一項の定めるところに従い、職権をもって必要な調査その他の事実審査を行ったうえで決定をすべきものであることは、控訴人佐藤の場合と同様である。前記(一)認定の答弁書及び再答弁書の記載と審査決定書の記載とを対照すると、被控訴人の決定は市長が提出した答弁書及び再答弁書の記載をそのまま是認したものであることが容易に見て取れるが、第三者機関である被控訴人が標準宅地の選定とその評定及び当該宅地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政的条件、画地条件等)を比較検討し、当該宅地の評価額を認定・算出するには、具体的資料に基づく審理が不可欠であるのに、被控訴人がこのような具体的資料を徴することなく審理を終結し、審査決定をしたことは、法四三三三条一項の趣旨に反し、審理不尽の違法があるものというべきである。
3 控訴人根本に関する審査手続
(一) 乙全第九及び第一二号証、乙ハ第一号証の1ないし9、原審における証人菊地政孝及び同古内康一の各証言、当審における被控訴人代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人根本に関する審査手続の経過について、次の事実が認められる。
(1) 控訴人根本は、四月三〇日、被控訴人に対し、その所有にかかる別紙物件目録三記載の土地外九筆につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請するとともに根本鎮郎を管理人に定めたが、その申出の趣旨を「前回(昭和六三年度)の評価額の2.7倍にアップする事は不当である。」とし、その理由を「周辺地区の実際売買価格を基準に評価額を算出するのは全く納得出来ない。平成二年度と平成三年度の課税標準額を比較した場合上限アップ率である約三〇%の上昇であるので次回の評価替えの年(平成六年)までの課税標準額は二倍相当額が予想される為」と主張していた。
(2) これを受けて、被控訴人が、五月九日、右審査申出を受理し、市長に対し、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める旨決定して、その旨の依頼書を発したこと、各委員がマイクロバスに乗って土地を見て回ったことは、前記2(一)(2)のとおりである。
(3) 五月一五日付で市長から提出された答弁書には、前記の控訴人らと同様に、土地の評価は自治省告示の定める基準に従って行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、控訴人根本の審査申出にかかる土地の評定について、当該土地の用途区分を併用住宅地区とし、当該土地の正面路線と同一の状況類似地区に属し、当該土地の東方三〇〇メートルに位置する宅地を標準宅地に選定し、近傍の売買実例価格、基準宅地及び他の標準宅地との評価の均衡を総合的に考慮し、当該標準宅地の適正な時価(評点数)を評定したうえ、この標準宅地と当該土地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政条件)を比較し、当該土地の正面路線評点数、側方路線評点数、二方路線評点数を評定し、これらの評点数にそれぞれ併用住宅奥行逓減率を掛けて、正面路線基本、側方路線加算及び二方路線加算一平方メートル当たり評点数を算出して、当該土地の評価額(一点一円)を算定した旨が示されていた。
(4) そこで、被控訴人は、同月一五日、控訴人根本に対し、右答弁書を送付するとともに、弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したところ、同月二一日、控訴人根本から弁ばく書が提出されたが、右弁ばく書には「自治大臣の告示する『固定資産評価基準』の明確な説明がほしい。」と主張するに止まっていたので、被控訴人は、同月二九日開催された委員会において、評価の根拠となる資料等を市長から提出を求めたりすることなく、審理を終結し、審査の申出を棄却する旨の決定をした。当日の委員会における審理経過は、委員長から「五月一五日付で答弁書を送付した訳であります。このようになって、根本さん、横田さんと出ている訳であります。それで本日は、「根本さん、横田さんについて決定しよう」ということになっております。決定書を一応読んでみましょう。」との発言があり、全員異議なく、すでに起案されていた決定書案のとおり決定されたものであり、当日の会議録には、その際に具体的資料に基づく検討がされたとの記載はない。
(5) 控訴人根本に送達された六月三日付の決定書によれば、右決定の要旨は、審査申出にかかる土地の評価については、自治省告示の「市街地宅地評価法」により、「①用途地区の区分について、当該地区を併用住宅地区と区分した評価庁の用途区分は適切である。②状況類似地区の区分について、評価庁は当該土地の属する状況類似地区の区分を都市計画図に図示し提示したが、評価庁の提示した当該土地の属する状況類似地区の区分は適切である。③標準宅地の選定について、評価庁は、標準宅地として、朝日三丁目一六番の宅地293.45五平方メートルを選定したが、評価庁の標準宅地の選定は適切である。④標準宅地の評価について、評価庁は当該標準宅地の評価格を九九、五〇〇点(平方メートル当たり)としたが、評価は適切である。⑤路線の評価について、評価庁は、当該地の正面路線評点数を九九、五〇〇点(平方メートル当たり)、側方路線評点数を三〇、一〇〇点(平方メートル当たり)、二方路線評点数を二七、六〇〇点(平方メートル当たり)としたが、評価庁の評価は適切である。⑥画地計算について、評価庁は、a正面路線基本一平方メートル当たり評点数を、正面路線価九九、五〇〇点に奥行一三一メートルの併用住宅奥行逓減率0.65を掛けた六四、六七五点とし、b側方路線加算基本一平方メートル当たり評点数を、側方路線価三〇、一〇〇点に奥行六八メートルの併用住宅奥行逓減率0.72と住宅併用側方加算率0.1を掛けた二、一六七点とし、c二方路線加算基本一平方メートル当たり評点数を、二方路線価二七、六〇〇点に奥行一三一メートルの併用住宅奥行逓減率0.65と併用住宅二方加算率0.05とを掛けた八九七点とし、本件土地の地積にこれらaないしcを合計した評点数を掛けて、評価額一億七五四六万一六二二円と算出したが、この画地計算は適切である。」というものである。
(二) なお、郡山市の資産税課の職員から説明を受けた旨の当審における被控訴人代表者の供述が採用することができないものであること、五月九日に行われた実地見分が、審査対象事項についての実地調査がされたものとみることはできないことは、控訴人佐藤及び同遠藤の場合と同様である。
(三) 以上の事実関係に基づいて、控訴人根本が主張する審査手続の違法のうち、審理が尽くされていないとの点について、まず判断する。
控訴人根本に関する書面審理手続の経過をみると、前記(一)認定の事実によれば、控訴人根本も、自己の所有する当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行ったが、市長から提出された答弁書によって、算式を交えながら自治省告示の定める基準に従って算出した過程が明らかにされたところ、控訴人根本が弁ばくとして固定資産評価基準についてのさらなる説明を求めただけに止まり、その他不服事由を具体的に特定して主張しなかったので、被控訴人が審理を終結して本件決定に至ったものである。
しかし、市長の答弁書の内容だけでは、評価が高いとする控訴人根本の主張に対して、比準した標準宅地の選定とその価格の決定に関する説明が決して十分でないと考えられるし、現に控訴人根本も固定資産評価基準の追加説明を求めていたのであるから、これまた被控訴人が控訴人に対する了知措置義務を尽くしたといえるかどうかは疑問の余地がないとはいえないばかりでなく、市長の答弁書に対して控訴人遠藤が右程度の弁ばく書しか提出しないからといって、同控訴人が右答弁書記載の主張及び事実を認めたものでないことは明らかであり、被控訴人としては、法四三三条一項の定めるところに従い、職権をもって必要な調査その他の事実審査を行ったうえで決定をすべきものであることは、控訴人佐藤の場合と同様である。前記(一)認定の答弁書の記載と審査決定書の記載とを対照すると、被控訴人の決定は市長が提出した答弁書の内容をそのまま是認したものであることが容易に見て取れるが、第三者機関である被控訴人が標準宅地の選定とその評定及び当該宅地の個別要因(街路条件、環境条件、接近条件、行政的条件、画地条件等)を比較検討し、当該宅地の評価額を認定・算出するには、具体的資料に基づく審理が不可欠であるのに、被控訴人がこのような具体的資料を徴することなく審理を終結し、審査決定をしたことは、法四三三条一項の趣旨に反し、審理不尽の違法があるものというべきである。
4 控訴人横田に関する審査手続
(一) 乙全第九及び第一二号証、乙ロ第一の1ないし5、原審における証人菊地政孝及び同古内康一の各証言、当審における被控訴人代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人横田に関する審査手続の経過について、次の事実が認められる。
(1) 控訴人横田は、四月三〇日、被控訴人に対し、その所有にかかる別紙物件目録四記載の土地につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請したが、その申出の趣旨は、右土地を表示したうえ、「平成二年 二七七二〇〇〇―三年 四二五〇四〇〇― 五三%アップ」とされ、その理由を「(右土地は)奥まった袋小路にあり、便利も悪く、使用も限られ、今回の五三%アップには驚いています。回りの発展を見て、ある程度のアップは覚悟しては居りましたが、五三%という数字には大変不満ですので再検討の程をお願いします。」と主張していた。
(2) これを受けて、被控訴人が、五月九日、右審査申出を受理し、市長に対し、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める旨決定して、その旨の依頼書を発したことは、前記2(一)(2)のとおりである。
(3) 五月一五日付で右市長から提出された答弁書には、前記控訴人らの場合と同様に、自治省告示の定める基準に従った評価方法の概略が示され、控訴人横田の審査申出にかかる土地の評価について、当該土地と同一の状況類似地区に属し、当該土地の西方一五〇メートルに位置する土地を標準宅地に選定し、近傍の売買実例価格、基準宅地及び他の標準宅地との評価の均衡を総合的に考慮し、当該標準宅地の適正な時価(評点数)を評定し、この標準宅地から当該土地を比準し、当該土地の評点数を評定して、当該土地の評価額を算定した旨、当該土地が袋小路であるとの申出は評価基準に該当しないので認容できない旨が示されていた。
(4) そこで、被控訴人は、同月一五日、控訴人横田に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したが、控訴人横田から右期限までに弁ばく書の提出がなかった。そこで、被控訴人は、同月二九日開催された委員会において、評価の根拠となる資料等を市長から提出を求めたりすることなく、審理を終結し、審査の申出を棄却する旨の決定をした。当日の委員会における審理経過は、控訴人根本の場合と同じであり、当日の会議録には、その際に控訴人横田に関しても具体的資料に基づく検討がされたとの記載はない。
(5) 控訴人横田に送達された六月三日付の決定書によると、右決定の要旨は、審査申出にかかる土地の評価については、自治省告示の「その他の宅地評価法」により、「①状況類似地区の区分について、街路の状況、環境条件、宅地の利用上の便からみて、評価庁の提示した状況類似地区の設定は適切である。②標準宅地の選定について、主要な街路に沿接した宅地のうちから選定された標準宅地は、評価庁の提出資料から判断し適切である。③標準宅地の評定について、評価庁が近傍の売買実例価格、基準宅地及び標準宅地相互間の評価の均衡を考慮し、標準宅地の評価額を一平方メートル当たり九二〇〇円と評定したことは、適切である。④審査申出の土地の評価について、評価庁が評価額四二五万〇四〇〇円(一平方メートルあたり九二〇〇円)と確定したことは適正である。」というものである。
(二) なお、郡山市の資産税課の職員から説明を受けた旨の当審における被控訴人代表者の供述が採用することができないものであることは前記説示のとおりである。また、被控訴人の各委員が、五月九日にマイクロバスに乗って実地見分をしたことは前示のとおりであるが、当日の会議録(乙全第九号証)には控訴人横田の審査申出にかかる土地の表示がないから、はたして右土地につき実地見分が行われたかどうか、はなはだ疑わしいところであって、これを肯定する趣旨の当審における被控訴人代表者の供述は、たやすく採用することができず、また当日の見分が審査対象事項についての実地調査がされたものとみることができないことは、前記説示のとおりである。
(三) 以上の事実関係に基づいて、控訴人横田が主張する審査手続の違法のうち、審理が尽くされていないとの点について、まず判断する。
前記(一)認定の事実によると、控訴人横田に関する書面審理手続の経過も、他と同様に自己の所有する当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行ったが、市長から提出された答弁書において、選定した標準宅地の場所及びその適正な時価が評点数によって示されたうえ、算式を交えながら自治省告示の定める基準に従って算出した過程が明らかにされたところ、それに対し弁ばくを行わなかったので、被控訴人は、市長から評価の根拠とした資料等を取り寄せるなどの調査をすることもなく、審理を終結して本件決定をするに至ったものである。
しかし、市長の答弁書の内容だけでは、評価が高いとする控訴人横田の主張に対して、比準した標準宅地の選定とその価格の決定に関する説明が決して十分でないと考えられ、これまた被控訴人が控訴人に対する了知措置義務を尽くしたといえるかどうかは疑問の余地がないとはいえないばかりでなく、市長の答弁書と審査決定書を対照すると、被控訴人の決定は市長が提出した答弁書の内容をそのまま是認したものといわざるをえず、これが法四三三条一項の趣旨に反し、審理不尽の違法があるものというべきであることは、控訴人遠藤についての説示と同一である。
四 以上のとおり、控訴人ら仁対する本件各決定には、審理不尽の違法があるものというべきであるが、被控訴人は、これが軽微な瑕疵であって、取消事由にはならないと主張する。
そこで考えるに、以上認定の事実によれば、被控訴人は、審査申出人である控訴人らの側には争訟を熟させていこうとする意欲が乏しいものと認め、申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならないとの法四三三条一項の迅速性の要請にかんがみ、市長に対し評価の根拠等の資料の提出を求めるなどの調査をしないまま審理を終結したものであると推認される。たしかに、固定資産評価審査委員会が審理の方法・範囲を審査申出人側の争訟態度に対応させて設定することはできるのはいうまでもないことであり、その不服の内容に応じ、事実審査の内容にも自ずから濃淡が生ずるのは当然であるが、行政庁のした処分の根拠となる資料を全く取り調べることもなく、いわば行政庁の処分を鵜呑みにするような審査・判断をすることは、独立の第三者機関である固定資産評価審査委員会に行政救済手続を委ねた法の趣旨を没却するものであって、この違法は決して軽微なものとはいえず、本件各決定はいずれも取消しを免れないものというべきである。
第五 結論
以上のとおりであって、その余を判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当でないから、これを取り消し、被控訴人のした本件各決定を取り消すこととする。
よって、訴訟の費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官原健三郎 裁判官伊藤紘基 裁判官杉山正己)
別紙物件目録<省略>